【特集】中川上越市長任期折り返し 公約実現へ合意形成など課題

新潟県上越市の中川幹太市長は2023年11月9日に就任から丸2年を迎え、4年間の任期の半分を終える。ふるさと納税返礼品の充実などいくつかの公約は実現したとするものの、看板公約ともいえる、副市長4人制と政策アドバイザー導入は実現のめどが立っていない上、通年観光も業者選定での出来レース疑惑が拭えない中、市民の合意が得られているとは言い難い状況下で計画策定が進められている。また、相次ぐ失言や発言撤回は、緊張感に欠ける市政運営と批判され、資質を問う声すら上がっている。初当選後からの2年間を振り返り、任期後半を展望する。

ふるさと納税やIT企業誘致は順調に

公約の中で目に見えてうまくいっているのは、ふるさと納税制度の積極活用で、重点政策のIT企業誘致も実績を上げている。

ふるさと納税は初の1億円超え

ふるさと納税は昨夏から返礼品を拡充し、寄付額が前年度に比べ約4倍に増え、昨年度初めて1億円を超えた。ただ、中川市長就任前の前市政は高額の返礼品を目当てにしたこの制度について、疑義を呈して国に見直しを求めていたことから、事実上力を入れていなかった。いわばゼロがプラスになったという状態で、成功している自治体と比べると緒についたばかりといったところだ。

中川市長(中)とインサイトラボの遠山社長(右)(2021年12月)

IT企業は続々と進出

IT企業誘致は就任後に掲げた重点政策で、IT業界の動向に詳しい民間事業者INSIGHT LAB(インサイトラボ)」(本社・東京都新宿区)に誘致活動を委託し、市産業立地課が中心となって進めてきた。その結果、上越妙高駅西口のローカル5G施設をはじめ、本町や木田などに複数の企業がサテライトオフィスや本社移転などで続々と進出してきている。

中川市長自身はこのほか、予約型コミュニティーバスの導入や職員の人事改革プロジェクトの遂行などをこの間の成果として挙げている。

公約45項目中43項目「動いている」

中川市長は自らの公約を45項目に分類・整理している。

45の公約がクリックで表示されます

「動いていない」のは副市長4人制と政策諮問委員だけ

任期折り返しを前にした定例記者会見で中川市長は45項目中「43項目については動いている」と説明。動いていないのは、副市長4人制と政策諮問委員(政策アドバイザー)の2つだけとした。

しかし、動いているのが43項目といっても、研究、検討、着手、完了など進ちょく度ははっきりしない。

研究? 検討? 着手? 進ちょく度ははっきりせず

公約の一つ「子育て全国一を目指します」は何を指標に実現とするのかも不明である上、少なくとも現時点では実現しているとは言えない。また、目指すだけで達成とも言える。「原発再稼働は運営会社の信頼なくして再稼働はあり得ません」という宣言的なものもある。

また「東京事務所を設置します」という公約がある。これは、市が新潟県の東京事務所に職員1人を設置に向けた研究・検討のために派遣しているだけで「動いている」に分類されている。

一方、「副市長4人制」については、就任直後に市議会に提案し否決されたが、中川市長はその後も実現に向けて合意形成などに取り組んでいると説明してきた。しかし「動いていない」公約に分類されている。

公約「地域独自の予算」実現は成果か

すでに実現した公約として中川市長自ら挙げた中に「地域独自の予算」がある。

地域活動支援事業を廃止

28の地域協議会が補助対象を審査して決めてきた「地域活動支援事業」を昨年度で廃止し、本年度から「地域独自の予算」を導入した。

補助率上限は7割に

地域独自の予算は、市民団体などが市に事業を提案し、市が直接実行するか、市が補助事業として対象を決める。予算の上限はないが、補助事業の場合、補助率の上限は7割だ。経過措置として来年度は9割、2025年度は8割、2026年度は7割と段階的に引き下げられる。

旧町村だった13区の観光協会や振興会など自主財源を持って活動している団体もあるが、3割を捻出することが事実上不可能な団体もある。

事業断念する住民団体も

上越妙高駅でのにぎわい創出や、「地域の宝」第1号に認定された大ケヤキの観光資源としての活用に取り組んできた「上越妙高駅と共に歩む会」も制度変更に苦しむ団体の一つだ。

写真は昨年2月下旬、上越妙高駅近くの土産物店につるし飾りを設置した同会のメンバーたちだ。毎年行ってきたこうした取り組みは、市が直接行うような事業でもなく、3割負担の補助事業となると同会は自主財源がない。その結果、同会は将来を見越して本年度からこの事業の実施を断念した。

同会の石平春彦会長は「小さな住民有志の集まりである当会としては残念ながら活動を断念せざるを得ない状況にある」と話す。「地域自治、住民自治の本旨に逆行するような市政の動きに憂いを持つのは私たちばかりではないだろう。一度失ってしまったものは元に戻ることはない」と見直しを求めている。

市によると中川市長就任後「地域自治推進プロジェクト」として地域協議会の役割や総合事務所の地域への関わり方など、地域自治の強化に向けて制度を含めた見直しに取り組んでいるが、本年度から地域活動支援事業を廃止したため、「地域独自の予算」だけが先行した形となっている。

中川市長は地域独自の予算事業について「市政が変わって新しい事業が出てきたときには不安に感じることもあると思う。始まって1年経っていないので、皆さんとお話しする機会を持って、これからの展望について分かりやすく示していきたい」としている。

副市長4人制と政策アドバイザーは任期中に

中川市長によると、45の公約のうち「動いていない」公約は、副市長4人制と政策諮問委員(政策アドバイザー)の2つだけ。

「同志」「一蓮托生」 12月議会提案に向け検討中

副市長4人制については就任直後の2021年の市議会12月定例会に提案して否決され、昨年の12月定例会では「理解が得られていない」として提案を見送った。

現時点でも任期中の実現を目指す姿勢に変わりはなく、仮に来年度当初から導入する場合には、3月定例会では人事の調整が間に合わないことから来月の12月定例会がタイムリミットとなる。

中川市長は「12月に向けて検討段階」とした上で、「私の同志というか、有能な人たちを、できるだけ一蓮托生ということで共にしていきたい」と説明。政策アドバイザーについても副市長4人制とセットで実施することに変わりはないと説明した。

昨年11月、12月議会への提案を見送ったのは、市民や議会の理解が得られていないことが理由だった。

この1年合意形成に向けて何をしたのか。中川市長は「具体的な内容は申し上げられないがまあ努力はしてきた」と言葉を濁した。

看板公約の通年観光計画は…

季節ごとのイベントに依存しない「通年観光」の実現は中川市長の看板公約だが、本年度の計画策定支援業務の公募型プロポーザルで、市と選定された業者が選定前から極めて近密な関係にあった問題が浮上した。

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上越タウンジャーナルは近密な関係や不適切な選定方法などについて事実を示しながら報道してきたが、中川市長は「選定委員会で客観的、公正に選定した」「わたしが選んでくれと言ったわけではない」などと繰り返している。

そもそも、通年観光という施策そのものについても、市民合意が得られているかどうかもはっきりしない。

8月下旬、通年観光をテーマにした市長と市民の対話集会が複数回開かれた。市民からは「報道されている出来レース問題をはっきりさせないで話を進めるわけにはいかない」「脱しがらみで当選した市長が自らしがらみを作り、市民を裏切った」という意見も出た。

別の会場で中川市長が「観光をやってしまうと今までの生活が崩れてしまうことはどこの観光地でもある」と発言したところ、「あなたは本当に市長か。それを私たちに甘受しろというのか。そういう通年観光には反対だ」という厳しい声もあった。通年観光の必要性について疑義を呈する意見はほかの会場でもあった。

中川市長は通年観光について「公約に掲げ賛同を受けてやってきたこと」「全ての人が幸せになる政策はない」「観光に使えるものは使っていく」とも発言している。

通年観光計画は、選定業者の支援を受けて市が策定を進めている。

中川市長は9月下旬の市議会で「10月にはお見せできる」と答弁していたが、未だ公表されていない。遅れている理由について上越タウンジャーナルは市に質問したが、合理的な説明は得られなかった。

「語録ができる」ほど相次ぐ失言

この2年間、中川市長の人格、人柄について市民が最も良く知るところとなったのは、皮肉なことに失言だ。

中でも最も市民の怒りを買ったのは、今年7月の市内の私立高校2校についての「レベルが下にある」という発言だった。謝罪に追われる中、その後の記者会見で「そのときはそう考えていた」とさらに失言を重ねた。

昨年4月の「直江津に商店街はない」発言でも釈明に追われた。最近では、市議会9月定例会でJAの仮渡し金が「まったく役に立たない」と発言したほか、同じ定例会で8つの政策プロジェクトについて自ら説明するとして語り始めたのに5つ目で分からなくなった。「えーと、あと何がありましたっけ」と詰まり「アハハ」と照れ笑いし失笑を買った。議員からは「語録ができる」と指摘された。

失言とは、言うべきでないことをうっかり言ってしまうことだが、本来無意味ではないはずで、意識の底には何か本当に言いたかったことがある。記者会見はもちろん、さまざまな場面でいろいろな関係者が真意を問うてきたが、中川市長の口から語られたことはなかった。

失言についての謝罪に合わせて「公約実現に向けてまい進したい」と述べるが、釈明がない中でのこうした言葉は空疎に響く。

記者会見での発言も撤回

発言についての問題は、失言だけではない。毎月定例の記者会見でのやり取りについて、会見後に撤回するという異例の事態がたびたび起きている。

5月には第3セクター「リフレ上越山里振興」による雇用調整助成金などの不正受給の実態解明について、「警察がやること」と発言。会見終了から約3時間半後、文書を出し「これ以上の追及は困難」と訂正した。

9月の記者会見では、通年観光プロポーザルをめぐる一連の報道について「事実誤認」との見解を示したが、数時間後に文書で撤回した。

中川市長は文書で「記者の質問の意図などを正確に確認しながらしっかりと答えていきたいと考えているので、ご理解ください」とコメントした。

記者会見での発言が後になって撤回されると、会見時の記者と市長の議論全体がまるごと無意味になり、市長としての説明責任が十分に果たされない。まさに異例の事態だが、この半年に2度あった。

市議会「的確な答弁」要請 資質問う声も

昨年12月の市議会で元市長の宮越馨議員が「市政発展の大きな障害になっている」として中川市長の退陣を求める一幕があった。公約について別の複数の議員が「時には見直す勇気が必要なのではないか」、「市長の公約については不信感を持っている。守れないなら潔く取り消すべき」と提案したのに対し、中川市長は「ますます改革を進める」と答えた。

また、今年9月の議会運営委員会では複数の議員から「質問に対して市長の答えがあまりにも離れていて、質問に答えていない」「まったく噛み合っていない」との声が上がった。10月16日、石田裕一議長らが市側に「的確な答弁」を求め申し入れを行っている。

「緊張感欠けた市政看過できない」 引退した超ベテラン元市議が異例の再出馬表明

相次ぐ失言に加え、公約実現も不透明な中、「これ以上の市政停滞を看過できない」と7年前に引退した元市議本城文夫さん(82)が先月、来年4月の市議選への出馬を表明した=写真=

本城さんは7年前に市議を引退し、現在は高田区地域協議会会長などを務めている。上越市議会史上最長の連続11期44年を務めて引退した超ベテラン市議の再出馬は異例といえる。

10月下旬の日曜朝、南三世代交流プラザには200人以上の支援者らが集まった。本城さんは「最後の決断をしたのは、中川市政の失態や失言を見てこれからの上越市はどうなるのか不安だった。また市議会も無断欠席など失態続きで、市政も議会も緊張感がない」とした上で、中川市政について「2年見てきたが歩みが遅く、期待したがイマイチ」と批判。「市政に活を入れ、ご意見番として市を元気付けたい」と通算12期目に向けた出馬を表明した。

「目指すまちづくりに一歩一歩近づきつつある」

中川市長はこの2年間について「市政のかじ取りの難しさを感じる場面が多々あったが、市民や現場の声を聞きながら、必要な方策を考え、一つ一つ着実に実行に移してきた」と振り返った。

任期2年を前にした定例記者会見で所感を述べる中川市長

また政策プロジェクトへの取り組みや第7次総合計画策定を挙げて「これら一連の取り組みを通じて、私が目指すまちづくりに一歩一歩近づきつつあるものと認識している」と述べた。

今後は、人口減少、若年層の転出超過への対応を「最大かつ喫緊の課題」としており、「市民の声や思いをしっかりとくみ取りながら、全力で市政運営にまい進していく」と決意を語った。

<おわり>

記事参照元:上越タウンジャーナル

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