[能登半島地震]津波の浸水被害の新潟上越市港町1・2丁目、徒歩避難は3割弱、車移動で渋滞発生、高齢世帯は見送ったケースも・町内会全世帯調査

能登半島地震で津波の浸水被害があった新潟県上越市の港町1・2丁目町内会は避難時の行動について全世帯アンケートを行い、結果をまとめた。地震後に避難したのは回答した世帯の8割超を占めたが、避難方法をみると市が推奨する徒歩は3割弱にとどまり、車で移動した世帯が7割超に上った。移動が困難な高齢世帯が避難を見送った事例もあり避難の在り方を巡る課題が改めて浮き彫りとなった。

アンケートは1月、町内にある会社の独身寮などを除いた250世帯を対象に実施。64%の160世帯が回答した。

津波避難についての質問に答えた149世帯のうち、「避難した」のは123世帯で8割強だった。

そのうち、避難先について答えた110世帯のうち、津波から逃れるために市が指定した町内の高い建物に避難したのは約4割に当たる43世帯。残り6割は町内以外の指定避難所や親戚・友人宅、近くの高架橋や、国が防災道の駅に選定した妙高市の道の駅あらいなどに避難した。

避難方法を聞いた質問には118世帯が回答。上越市が推奨する徒歩で避難したのは33世帯で3割弱にとどまり、7割超の85世帯が車で移動した。

避難者が最も多く集まった指定避難所の旧古城小学校に避難したと答えた42世帯のうち、約半数は車で避難所に向かったため渋滞が発生し、避難完了に時間がかかった事例もあった。

避難しなかった理由を答えた11世帯のうち、7世帯が「今の場所が安全」と判断。3世帯は「家族も含めて体が不自由」と答えたほか、記述式回答にも「日中は高齢者だけなので避難できない」「高齢者らの避難をどうサポートしたらいいか」という声が目立った。

アンケートを集計した港町1の防災士、泉秀夫さん(82)は「企業の独身寮を除くと町内の高齢化率は実質約4割となり、今後も高まっていく。津波避難ビルの周知や避難困難者を把握するなど日頃からの備えが必要だ」と話した。

津波で流されてきたごみなど片付けに追われる住民=1月2日、上越市港町1

◆避難困難者の個別計画が必要
日本海側で発生する津波の第1波は到達時間は太平洋側よりも短いとされる。上越市は津波ハザードマップで上越沖にある最も近い断層が動いた場合、5〜15分で津波が押し寄せる可能性を指摘。港町地域は全域で浸水が予想されるため住民は大きな揺れと同時に避難する必要がある。

能登半島地震で港町に津波が浸水したのは地震発生から約30分後。旧古城小に避難した世帯のうち、避難時間について答えた33世帯の9割が津波到達までにたどり着いた。「津波を想定した避難訓練の成果が現れ、大きな揺れですぐ高所に避難する意識づけができている」。災害避難について詳しい東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(新潟市東区出身)は住民の避難行動を評価する。

ただ、地震発生後10分以内に旧古城小に到着したのは徒歩で避難した6世帯。揺れが収まると同時に車で避難を始めたが、渋滞に巻き込まれ到着に時間がかかった事例もあった。

「徒歩の方が車より速く移動できる」と佐藤准教授は指摘し「地域全体の命を守るという視点で、避難困難者の個別避難計画を作り、優先的に車で避難できるようにすることが大切だ」と呼びかける。

記述式回答では避難場所についての課題が挙がった。「指定の津波避難ビルに入れず戸惑った」「旧古城小は避難した車をグラウンドに誘導できないか」「高齢者用に避難タワーを建設してほしい」など、誰もが短時間で避難できる環境整備を求める声があった。

町内会や消防団などのメンバーは2月中旬、旧古城小の避難時の備品や避難経路の安全性を確認した。5月19日に改善案を盛り込んだ避難訓練を行う。

佐藤准教授は「訓練などを通じて定期的に避難経験を振り返ることで強い揺れがあったらすぐ行動する意識につながる」とアドバイスしている。

記事参照元:新潟日報デジタルプラス