“誰か”のおなかを満たす『げんきチケット』で 誰一人困らない世界を願う「カレー屋ふくふく」新潟県妙高市

おなかも満たされるだけではなく“心も温まるカレー”の話題をご紹介します。

新潟県妙高市の『カレー屋ふくふく』のカレーは一皿390円という驚きの値段。
でも驚くのはそれだけではありません。
げんきチケット」という仕組みで“無料”で食べる人もいるそうです。

2023年6月にこのお店を始めた保坂正人さん(43歳)に、カレーに込めた“思い”を伺いました。

『カレー屋ふくふく』の看板メニューは、もちろんカレーライス。
魚粉がアクセントになっている、ダシがきいた「和風カレー」で、誰もが食べやすい、まろやかな味わいです。
お客さんがそれぞれ辛さを調整したり、さまざまなトッピングを楽しんだりできるのも、この店の魅力のひとつ。

元々空き家だった一軒家をDIYなどで改装してオープンした『カレー屋ふくふく』には、多い日で30人ほどが来店します。

「他にはない味だね」
「魚粉のカレーみたいで、初めてなんですけどおいしいですね」
「懐かしいというか、シーチキンの味がして結構いいですね」

そして店の券売機には、看板メニューのカレーライスと並んで「げんきチケット」と書かれたボタンが…。実はこのチケット、自分で使うものではありません。

【記者リポート】
「390円でげんきチケットを購入します。そして出てきたチケットを、脇にあるホワイトボードに張り付けておくと、今度誰かの空腹を満たすことができるんです」

「カレー普通盛り」と同じ料金・390円で購入できる『げんきチケット』は、経済的に余裕のない人や、子どもたちに“カレーを食べてもらう”チケットです。

【カレー屋ふくふく 店主 保坂正人さん】
「げんきチケットが、必要なのかどうかも正直分からなかったんですね、しっかり貧困率を調べたわけでもないですし…。ただ私は、こういったお店があればすてきだなって感じて作ったんです」

このげんきチケットは、確実に誰かの支えになりました。
お腹をすかせた中学生や、生活保護を受けている家族連れ、詐欺被害に遭った人など…。様々な人が利用してくれたのです。

そして、このげんきチケットを購入する人も続々と現れました。
食事のついでにという人だけではなく、毎月チケット“だけ”を買いに来る人もいるとのこと。中には、一度に100枚分を買ってくれた人もいたそうです。

【チケット購入者】
「常に困窮じゃなくても、年金の前に困窮だったりする人もいるから、すごく重要かなって」
「こういう実践的な取り組みは応援したくなるし、続けていってもらいたいから、継続的に買って陰ながら応援していきたい」

【カレー屋ふくふく 店主 保坂正人さん】
「実際にチケットを買ってくださったりする方たちの姿を見て、やっていることは間違っていなかったんだなって感じています」

「ちょっと店を閉めて行ってきます」

新潟県妙高市で『カレー屋ふくふく』を営む保坂正人さんは、「店に行けない」という人たちの声を受けて“配達”も行っています。

「ケアハウス・デイサービス・ヘルパーステーション・グループホームの複合施設ですね。そこの職員さんから注文を頂いたので」

個人宅への配達のほか、地元の建設会社の社員食堂に届けたり、妙高市役所で移動販売もしたりしているそうです。

「すごいおいしかったので今回も注文しました」
「早番で食事を作れずに持ってこられないことがあったんですね。なので配達をしてくれると非常に助かります」

【カレー屋ふくふく店主 保坂正人さん】
「人と触れ合う機会が増えますのでぜひ増やしていきたい」

保坂さんは取材中に何度も、『人とのつながり』を口にしていました。
そして、店のメニューに「カレー」を選んだのにも理由があります。

【カレー屋ふくふく店主 保坂正人さん】
「調理が比較的簡単。提供のオペレーションも簡単にして、障害者雇用につなげていきたいって思いがあります」
「カレー屋をやりたいんじゃなくて、地域でどうやったら福祉的な事ができるかなというのが出発点」
「事情があっても働けて、誰でも来れて、つながっていける場所…」

上越市出身の保坂さんは、大学時代に始めた演劇を続けながら、社会福祉士として就職しておよそ16年間、ケアマネージャーなど福祉の仕事をしてきました。

そんなある日、妙高市で“子ども食堂”の活動に触れたことがあったそうです。

「みんなでご飯食べて、後片付けして、みんなすごい楽しそうにしていて…。これが“地域のつながり”なんだと感じました」

そして自身も『子ども食堂や地域活動などの手伝いがしたい』と考えたとき…、
新型コロナウイルスが社会を“分断”。

「つながりも全部ダメになって、手伝いもできないですし。集まること自体が悪、つながることが悪、みたいな社会的な風潮になって…」

新型コロナウイルスのまん延で生活が一変し、福祉の仕事でも「距離をとること」が求められました。

【カレー屋ふくふく店主 保坂正人さん】
「福祉って、“寄り添うこと”がすごい重要だと私は思っていたんですけど、それが全部否定されたような気がしちゃって…」

さらに、あるニュースを見て胸を締め付けられたといいます。

「ずっと前のニュースなんですけど、虐待されて餓死した子もいて…。そんな子はもう絶対にこの世に作っちゃいけないなって思いがすごい強くて。お腹をへらす子を、一人でも救いたい、なくしたい、って…」

そこで、飲食業も開業の経験もない保坂さんが考えたのが、誰もが通える地域食堂だったのです。

新潟県上越市出身の保坂正人さんが『カレー屋ふくふく』を妙高市に開いて1年。
今では常連客もでき、多くの人にとっての“居場所”になりつつあります。

「気さくな方で。私自身も福祉の仕事をしているので、いろいろな話を聞いてもらってアドバイスもらったり…」
「カレーももちろんおいしいんですけど、仕事で疲れたときにいろいろな話を聞いてもらったりとか…」

保坂さんは、『カレー屋ふくふく』の想いのこもった「げんきチケット」の存在を、もっと多くの人に知ってもらい、気軽に利用してほしいと考えています。

【カレー屋ふくふく店主 保坂正人さん】
「人と人のつながりの再構築、居場所づくりという思いですね。新型コロナウイルスで全部ぶっ壊れてしまった世の中を直したい」
「ゴールはないと思うけど、誰一人困らない世界、ちゃんとご飯が食べられて、話をできる人がいて、そんな世の中になったら『ふくふく』は役目を終えられる…」

記事参照元:BSN