新潟上越市の大島、安塚、浦川原の3中学校が統合「東頸中学校」大きな期待と少しの不安 友達、通学時間…“事前準備”の成果は?
新潟県上越市の大島、安塚、浦川原の3中学校が統合し、東頸中学校が4月1日、開校した。14市町村が合併した上越市で旧町村単位の中学が初めてなくなったが、地域と学校と市が、子どもたちの学ぶ環境を維持しようと準備を進めてきた。全校生徒95人は、大きな期待と少しの不安を胸に新たな学びやで船出をする。(上越支社・山際美香、鷲頭泰子)
「ナイスプレー!」「ドンマイ」。3中学の生徒約60人が3月中旬、浦川原中の体育館でバレーボールを楽しんだ。統合を見据え、生徒の一体感を高めるために行ってきた交流授業の一環だ。最初は学校ごとに固まりがちだったが、他校の生徒とボールをつないで得点し、ハイタッチを交わすなど次第に打ち解けた。
統合前の生徒数は大島17人、安塚27人、浦川原59人。上越市教育委員会の推計によると、統合しなかった場合、3校とも生徒数の減少傾向が続き、大島は2028年度に複式学級が発生する見込みだった。
4月10日に始業式、11日に開校式と入学式を行う東頸中は、2年生が2学級でスタートする。生徒らが期待するのは「人数が増え、できることが多くなる」ことだ。5月の体育祭で全校生徒が参加するリレーや応援合戦を楽しみにする生徒は多い。
次期生徒会長で浦川原区の新3年生、長谷川絆さん(14)は「人数が増えて応援合戦が盛り上がりそう。体育の授業でも球技など団体競技がしやすくなる」と喜ぶ。
統合準備は2022年度から本格的に始まった。市は統合実行委員会を設置し、保護者や住民の代表らが部会に分かれ、通学方法や制服、校歌などを決めた。子どもたちが新中学にスムーズに移行できるよう課題を解消してきた。
生徒や保護者が最も不安だったのは、新しい人間関係をうまく築くことができるかだ。3地区は保育園や小中学校がそれぞれ一つで、これまでずっと同じ仲間と過ごしてきた。
「他の学校の子と仲良くできるか心配だった」と打ち明けるのは浦川原区の新2年生、竹内心花(こはな)さん(13)。3校は統合までの1年間、合同のスキー授業や球技大会などを開催し、親交を深めてきた。竹内さんは「最初は互いに遠慮していたけれど、だんだんと普通に話せるようになった」と話す。
大きな懸案のもう一つが通学時間の長時間化だ。東頸中は旧浦川原中の校舎を使うため、大島、安塚両区からはスクールバスで通う。両区に2路線ずつ設け、登校時に1便、下校時に2便を運行してきめ細やかに対応する。
大島中まで徒歩約1分だった新3年生、丸山玲哉さん(14)は、自宅そばからスクールバスに乗る。通学時間は約15分かかるが「家を出る時間は前とほぼ同じ。生活はあまり変わらない」と捉えている。
新しい環境に不安も芽生える。これまで3校は地域も関わる行事を大切に守ってきた。安塚中の演劇祭、大島中の夏祭りなど各校の伝統行事は引き続き行う予定だが、変化するのではと心配する生徒もいる。
安塚区の新3年生、津幡ひよりさん(14)は「東頸中でも演劇祭をするのはうれしい。だけど、安塚中の時と形が変わると思うし、来年もやるかどうか分からない」と漏らす。
また、市教委の2023年度時点の推計によると、東頸中の生徒数は26年度以降は減少傾向が続く。推計値は上越教育大付属中や他学区に進学する生徒も含まれた数字のため、開校初年度の生徒数95人は推計より5人少なく、減少はより進行しているとみられる。
仲村健一教頭(43)は「今後いろいろな課題が出てくると思うが、まずはこれでスタートする。統合で東頸全体につながりを広げ、生徒が地域に愛着を持つことができるようにしたい」と話している。
◆小規模化と統廃合、「適正規模」確保へ課題
上越市内の小中学校は3中学の他にも小規模校が多くある。
2023年5月時点で、小学校47校のうち複式学級があったのは9校。全学年とも1学級しかなく、クラス替えができないのは20校に上った。市の調査(18年度)によると、小学校1校当たりの平均児童数は184人で、県平均約240人、全国平均約320人よりも少なかった。
これらを踏まえ、市は2025年度に三和区内の3校を統合し「三和小」を新設するほか、旧上越市内の諏訪を戸野目に編入統合する。三郷も26年度に南本町への編入を目指し、協議を進めている。
中学校は22校のうち、各学年1学級でクラス替えができないのは9校。潮陵と牧は将来複式学級ができる見込みだ。国が定める適正規模(12〜18学級)を満たすのは5校にとどまる。
上越市教委は「市立小中学校適正配置基準」を2010年度に策定し、「小学校12〜24学級」「中学校6〜12学級」を適正規模としている。さらに「少なくとも1学年1学級以上の確保」を重点に据えている。
実際には小学校で複数の複式学級校があるが、市教委として具体的な統合計画を打ち出していない。「学校は地域と密接に関わっている。保護者や地域の意志が固まらない限り統廃合は推し進めない」(市教委)という考えだ。
児童生徒数の減少に伴う学校の統廃合は、多くの県内市町村にとっても大きな課題だ。各学校の児童生徒数の将来推計を示したり、統合計画を打ち出して地域と協議したりしている。新潟市は市内全小中学校の6年先までの児童生徒数や学級数の見込みをホームページで公表している。
一方、上越市教委は複式学級が既にあるか、5年以内に発生する可能性がある学区の保護者や住民に限って、今後の児童生徒数の見込みを伝えるにとどまる。市教委は「数字が一人歩きして対象地域に不安を広げたくない」としている。
記事参照元:新潟日報デジタルプラス