やはり起きた接触事故 新潟・直江津航路に求められるクジラ対策

佐渡汽船(本社・新潟県佐渡市)の高速船ジェットフォイル(JF)が8月、同市から上越市に向けて航行中に大型海洋生物とみられる物体と接触し、高速航行ができなくなるトラブルがあった。この航路は鯨類の目撃情報が多いことで知られており、接触・衝突回避策の充実が求められそうだ。

海洋生物の肉片

トラブルが発生したのは8月11日午後4時すぎ。佐渡市の南西部、小木港から上越市の直江津港に向かっていたJF「ぎんが」は、小木港の南約24キロを航行中に大きな物体に衝突。船体を海面から浮かせての高速航行ができなくなった。

時速28キロで一般的な船と同じように航行し、約1時間半遅れの同6時半ごろ、直江津港に到着。その間、上越海上保安署の巡視艇が体調不良を訴える乗客が出た場合に備えて並走した。乗客25人にけがはなく、体調不良を訴える人もいなかった。

JFは、ウオータージェット推進機により吸い込んだ海水を船尾から勢いよく噴射し前に進む。船体の前と後ろにある水中翼を海中に入れて浮力を発生させ、海面から船体を浮かせて高速航行する。

同署などが到着したJFを調べたところ「前の水中翼と船体の間にある衝撃緩衝装置が(何かにぶつかった衝撃で)緩んでいた。水中翼の下部にあるフラップ(翼)には海洋生物とみられる肉が挟まっていた」(同署)という。

JFには、海面の浮遊物などに衝突しても、衝撃が船体に直に伝わらないよう水中翼と船体の間に衝撃緩衝装置が設置されている。今回はその装置が機能した格好だ。JFは衝撃緩衝装置の部品を交換し、翌日から通常通り運航した。

注目される報告書

新潟大学名誉教授の本間義治氏(平成27年10月に死去)は、佐渡島と新潟県本土の間の佐渡海峡に生息する鯨類の目撃情報を長年、分析。13年に鯨類の研究ネットワーク組織「日本セトロジー研究会」に寄せた報告書の中に次のような興味深い一文がある。佐渡汽船の乗組員らの目撃情報を分析し、まとめたものだ。

「佐渡汽船の新潟-両津航路(新潟航路)と比べて就航便数が少ない小木-直江津航路(直江津航路)のほうで鯨類の目撃回数が多く、その頻度が新潟航路の倍に達している。直江津航路では、佐渡海峡の中央線よりも佐渡島寄りのほうで目撃回数が多い」

まさに今回の接触トラブルがあったエリア付近である。

佐渡汽船が売却した高速カーフェリー「あかね」=新潟県上越市の直江津港(本田賢一撮影)
佐渡汽船が売却した高速カーフェリー「あかね」=新潟県上越市の直江津港(本田賢一撮影)

2年半前の悲劇

直江津航路では今春まで双胴船タイプの大型高速カーフェリー「あかね」で乗客を運んでいた。しかし、双胴船特有の揺れで船酔いする乗客が多発し、維持コストも高かったため、経営再建中の佐渡汽船はあかねを売却。新潟航路で使っていたJF「ぎんが」を直江津航路に転用し、4月29日から運航を開始した。接触トラブルはJFの運航開始以来、初めてだった。

あかねは全長約90メートルと大きく、速力は時速55キロとJFより遅い。一方、JFは全長約23メートルで、速力が時速85キロ。海面から浮いて高速航行するため、鯨類などとの接触・衝突事故が全国で度々起きている。

くしくも、ぎんがは新潟航路時代の平成31年3月、航行中に大型海洋生物とみられる物体と衝突し、乗客乗員計80人が腰の骨を折るなどのけがをした。乗客の一部とは損害賠償請求訴訟に発展している。

同様の悲劇を繰り返さないため、直江津航路でも鯨類対策のさらなる充実が求められる。(本田賢一)

記事参照元:産経新聞

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