「空き家」を活かす8つの補助金。新潟県上越市が掲げる「リフォーム」が軸のまちづくり
新潟県上越市。雁木通りが有名な豪雪地帯にある同市は、旧市街地である高田と直江津、そして行政の中心である春日山という複数の拠点がある街です。
そんな同市が取り組むコンパクトシティ施策は徹底したリフォーム。今ある歴史を時代につなぐ覚悟が見て取れます。
今回の記事では、上越市でのレガシーを活用したまちづくりを「高田」「直江津」の2拠点を軸にお伝えします。
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上越市について
まず上越市の地理を見ていきます。
50年ほど前まで別々の街だった「高田」「直江津」が中心の役割を果たしています。この2つの街をJRから経営移行した「えちごトキめき鉄道」の「妙高はねうまライン」というユニークな社名路線名の鉄道会社がつなぎ、途中に行政の中心である春日々があります。
上越市はなんといっても豪雪。その雪の多さから、街なかを大雪の日でも歩けるように「雁木通り」が整備されてきました。
雁木は、歩道上に民家の屋根を張り出させたもの。アーケードやピロティのような建築と通ずるものがあります。
そして、高田エリア・直江津エリアともに、地区の空洞化や衰退に悩まされてきた歴史があります。高田地区では大手の百貨店やスーパーの撤退が2000年代にあり、直江津地区では北陸新幹線が延伸したことで特急列車が大幅に縮小されてきました。
こうした反省を活かし、上越市では既存の建物をリフォームする形でのコンパクトシティ形成に躍起です。手厚い補助も出しています。
上越市の街並みを守る手厚い補助金
上越市は2018年から「まちなか居住推進事業」に着手。その名の通り、この60年で2倍に広がってしまった街を整頓し、コンパクトな街に戻していく取り組みです。
特徴は、リフォームや空き家を活用するために用意された補助金の数々です。新潟県上越市で2022年度から取り組まれている「まちなか居住推進事業」では、「誘導重点区域」において下記を支援しています。
リフォーム…耐震耐火などのリフォーム費用を一部補助
建て替え…解体や隣家の外壁復旧費を一部補助
雁木通りの街なみ形成…修景事業費の一部を補助
空き家の片付け…家財道具を搬出・処分する費用の一部を補助
空き家の購入…空き家を購入する費用の一部を補助
お試し居住…家賃の一部を補助
空き家の賃貸用リフォーム…商業施設や事務所とするためのリフォーム費用の一部を補助
空き店舗の利活用…リフォーム費用の一部を補助
例えば「町家のリフォーム」の場合、経費の2分の1を100万円を上限に補助します。子育て世帯など条件を満たせば加算される場合もあります。
なお誘導重点区域は直江津駅の北側、高田駅の東側。市域の広さに比べるとかなり厳選されたエリアと言えます。
他の街にあるような、大規模な再開発や複合施設、タワマン、高齢者住宅等はありません。それ以上に既存の物件を有効活用し、すこしでもコストを抑えながら街並みを残していこうという意思が伺えます。
高田エリアは「雁木」を強みに
特に高田エリアの場合、日本一長い雁木通りが名所となっています。駅前から雁木が続く様は圧巻で、他の街とはあきらかに異なる不思議な光景が見られます。
美しい景観が見られる一方で、「空き家」になると最悪の場合「道が崩壊する」というリスクがあります。この雁木が原則私有地に作られているためです。これが先述の手厚い補助につながっています。
裏返して言えば、自分の家の一部を他人に開放しているわけで、通常の歩道が公共事業で整備されてきたのとは全く事情が違います。家の目の前に雁木があるだけで、道路維持の手間や自動車を所有する難易度の高さ、近隣づきあいなど、コストや手間がくっついてきます。
「雁木」を維持で観光誘致へ
資料を見る限り、道路の拡幅や雁木のリノベーションを通じて、中心地をアップデートしようという意識は感じられます。あとは心理的ハードルをどのように乗り越えさせるかが課題ではないでしょうか。
「雁木通り」をテーマにした催事などの開催実績もあり、アフターコロナ時代に新たな賑わいが生まれることを祈りたいところです。城の跡地や、日本一古いと言われる映画館など、歴史的建築も揃っている高田。ポテンシャルはあります。
新幹線も近いしね。
直江津は再び「玄関」になれるか
直江津は鉄道と船の交通拠点ではあるものの、どちらかというと工業や商業エリアであり、高田とは補完関係にあります。
商業では、世界屈指の売り場面積を持つ「エルマール」の無印良品、イオン、複合施設の「リージョンプラザ」などが点在しており、また工業に関しては駅東側、関川を渡った先に、隣駅の犀潟まで続きそうな工業地帯が広がります。「「「クルマさえあれば」」」(重要)「「「「雪がない時期は」」」」(もっと重要)便利です。
交通拠点なのにクルマがないと不便
一方で駅前は寂しく、たとえば北越急行ほくほく線は1時間に1本、妙高はねうまラインは1時間に2本、JRは柏崎方面は1時間に3本走るときもありますが糸魚川方面は1時間に1本という、なかなかのダイヤの薄さです。
バスも各方面に充実しているように見えますが、各系統は1~2時間に1本程度で便利とは言えません。少し進んだ街の中心地は、昭和で時が止まっています。
直江津は北陸新幹線が延伸するまでは越後湯沢から東京方面の乗客を運んでくる拠点の1つでした。翻って2016年の北陸新幹線延伸後、賑わいは減っているように見えます。良く言えばエモい、悪く言えばオワコンです。
工業地帯があり、港があり、道路や鉄道も充実するなかで、人の集まる拠点がイオンになってしまっている典型的な「寂れた地方都市」と化している直江津。
課題はズバリ、失われた拠点性をいかに復権させ、新たな役割を担わせか、であるといえます。「かつて拠点だった」ではなく、新たに「なにかの拠点となる」変化が求められていると言えるでしょう。
昭和テイストを売るのも手か?
例えば、すでに使い古された手法ですが、昭和レトロの港街として売り出してみるのはどうでしょうか。
駅から無印良品までの西本町エリアに厳しい景観条例かなにかを出して、昭和風の街並みを維持。空き家に県内外からありったけの昭和グッズを集めて、空き家を簡易宿泊所にして、昭和の暮らしを体験しつつ、無印とコラボして集客とアメニティ提供をしてもらう。
駅前では昔のフィルムカメラレンタルか、「写ルンです」販売をして、帰りにカメラを預けると新幹線で東京につく頃にはメールかLINEで現像したフィルムの写真が送られてきて、後日自宅にいい感じに昭和テイストな「アルバム」が届く…イメージとしては、そんなやり方です。
「昭和文化の拠点」として、Z世代が新鮮で、高齢者が懐かしい街にする。きっと、「どこを撮っても映える街」と「訪れるとボケ防止になる」は両立できるはずです。佐渡や越後湯沢なんかと連携した周遊ルートがあっても良いかもしれません。
上越市の本気度は高い
高田・直江津地区ではここ最近、2ヶ月に1度のペースで「ニュースレター」を発行しており、まちづくりの近況を住民に伝えています。こうした対話や発信といった工夫は、特に街をリノベーションしていく中では重要になっていくでしょう。
また有識者を招いたワークショップも実施しており、立地適正化計画を立てただけの自治体とは違う「本気度」のようなものを見せてくれています。
参加者がおじいさんだらけなことには目をつむります。
豪雪という定期的なイベント、ならびに中心地の空洞化による商業施設の撤退など、分かりやすい街の衰退を一度味わっているからこその、新たな時代を見据えた温故知新のまちづくりに期待です。
記事参照元:日本をちいさく良くするメディア