死亡事故寸前のずさんな対応 上越市立小給食アレルギー事故 被害児童PTSDで学校生活困難に
上越市教育委員会が今年9月に公表した市立小学校での給食アレルギー事故で、学校側の対応に問題があったことが2023年10月13日までに、複数の関係者への取材で分かった。市教委は事故後の記者会見で学校の対応に問題はなかったと説明していたが、実際の対応は発症後の児童を一人にしたり、アナフィラキシー症状を抑える「エピペン」の使用が遅れたりと、市のマニュアルに沿っておらず、専門医は「死亡事故になってもおかしくなかったほどの最低の対応だ」と厳しく批判している。被害児童は事故後PTSD(心的外傷後ストレス障害)になり、学校生活に支障をきたしている。
- 何が起きたのか
- 児童はPTSDで学校生活に支障
- 調布市の死亡事故契機にマニュアル策定
- 専門医「死なせようとしていたのか」 対応あまりにずさん
- 事故1か月前に研修 生かされず
- 市教委当初「対応問題なし」 材料名も非公表
- 原因物質はなぜ見過ごされたのか
- 度重なる上越市での事故
- 死亡事故いつ起きてもおかしくない状態
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何が起きたのか
被害にあった市立小学校児童は重度の牛乳アレルギーで、9月5日の給食のスープに使われた「クリームコーン」の乳成分が見過ごされていた。
複数の関係者への取材をもとに経過を時系列でまとめると次のようになる。
午後0時15分頃 児童が給食を食べ始めた。乳の成分が入ったスープに違和感を覚え、途中で飲むのをやめた。
午後0時25分 給食を3分の1ほど食べたところで、腹痛を担任に伝えて一人でトイレに行った。
午後0時30分 担任がトイレをのぞいたが、声をかけかなかった。
午後0時35分 児童が戻って来ないことから別の教員がトイレに行った。教員はドア越しに「給食を片付けていいか」という主旨の質問をしたが、ドアを開けて児童の姿を確認することなく教室に戻った。
児童は、一人で自力で教室に戻った。すでに顔が真っ赤で足もふらつく状態だった。学校側が異変に気づいて対応を始めたのはこの時点だった。教員たちはアナフィラキシー症状を抑える「エピペン」を用意したもののただちに注射しなかった。担任らが児童に「打ちますか」「救急車呼びますか」「気持ちは」「今、どんな感じ」「どこに打ちますか」などの質問を繰り返した。
午後0時43分 担任と養護教諭がエピペン注射。
午後0時48分 学校が救急車を要請。
午後1時8分 救急車が到着。その後児童は市内の病院に搬送され入院した。
児童はPTSDで学校生活に支障
児童は翌日に退院したものの、事故の際のつらい体験や恐怖がフラッシュバックし、今も給食が食べられないなど学校生活に支障が出ている状態だという。
調布市の死亡事故契機にマニュアル策定
給食でのアレルギー事故については、東京都調布市で2012年に小学5年生女児が亡くなったことをきっかけに全国で対策が進んだ。上越市も調布の事故を契機にマニュアルを策定している。
調布の事故では、給食でチーズの入ったチヂミが牛乳アレルギーのある女児に誤って提供された。女児は症状を訴えてから、わずか9分後に意識を喪失し、14分後にエピペンを打ったが、死亡している。
今回の上越市のケースでは、発症後エピペンを注射するまで18分かかっている。
専門医「死なせようとしていたのか」 対応あまりにずさん
緊急性の高いアレルギー症状がある場合の基本的な対応を定めた上越市のマニュアルでは、「5分以内に判断する」「子供から目を離さない。一人にしない」とされ、今回のように我慢できない強い腹痛があるときには「ただちにエピペンを使用する」などとされているが、いずれも実行されていない。
「まったく逆なことをしていて、死なせようとしていたとしか思えない」──。
こう憤るのは、小児アレルギー専門医で児童の主治医でもある「小児科すこやかアレルギークリニック」院長の田中泰樹医師だ。田中医師はアレルギーについて各地の自治体で研修や講演なども行っている。
今回のケースでは、少なくとも次の点の対応が問題だったという。
- 給食時なので誤配膳、誤食を疑うべきなのに見過ごしていた。
- 症状を訴えている児童を一人でトイレに行かせた。
- トイレに行った教員はドアを開けて確認しなかった。
- エピペン注射をただちに行わなかった。
いずれもマニュアルに反している。
事故1か月前に研修 生かされず
田中医師は、事故の1か月余り前にこの学校にアレルギー対応研修の講師として招かれている。研修は今回被害にあった児童への対応を含め開催されたものだった。当日は、アレルギー事故が起きた際の緊急対応を中心に養護教諭や教職員らに詳しく説明したというが、今回の事故対応では研修の内容は生かされなかった。
市教委当初「対応問題なし」 材料名も非公表
事故翌日、記者会見した市教委は、児童は5日午後0時15分頃から給食を食べ始め、約15分後に皮膚の赤みや呼吸の苦しさなどを訴え、その後教職員が「エピペン」を注射したと説明。詳細な経緯などは明らかにしなかった。記者から「発症から救急搬送まで対応に瑕疵(かし)はなかったという認識か」と問われると、「学校は危機管理体制の下しっかり対応した」と答えていた。
また、原因となった材料は「クリームコーン」だったと取材で判明したが、市教委は「個人の特定につながる」として当初から公表していない。
原因物質はなぜ見過ごされたのか
児童が原因物質を食べた後の緊急対応もずさんだったが、原因物質が給食に出された経緯もずさんだった。
栄養教職員 配合成分表取り寄せず
マニュアルでは加工品について栄養教職員が配合成分表を納入業者から取り寄せることになっていたが、今回のクリームコーンに限らず、取り寄せを怠っていた。
調理員 食材のダブルチェックも虚偽
さらに、給食当日の調理前にも確認することになっている。今回のケースでは配合成分表がないため確認ができないにもかかわらず、チェックリストには委託先企業の調理員2人によるチェックが入っていた。また、調理員には「乳・乳製品」が原材料表示にあった場合にアレルギー対応が必要という認識があったというが、チェック済みとして調理が進められた。
これらのマニュアルに定められたチェックを一人でも適正に行っていれば、クリームコーンの使用は防げたことになるが、現実には全員がミスを犯している。
度重なる上越市での事故
同市では2018年8月に給食誤配食によるアレルギー事故があり対応マニュアルを見直したが、その後もマニュアルに沿った対応がなされず同じ生徒に対し2022年5月に誤配食事故を起こしている。
昨年5月の事故の際は、保護者が氏名などを除いて詳しく公表するよう求めていたにもかかわらず、市教育委員会は当初、詳細に公表しなかった。
上越市教育委員会の市川均教育部長は今回の事故について「全く問題がなかったとは言えず、当然改善する余地はある」としており、今後調査し結果を公表するとしている。
死亡事故いつ起きてもおかしくない状態
アレルギー専門医の田中医師は今回のケースについて「児童が途中で気づいて食べるのをやめたことが大きい。全部食べていたら死亡事故になっていた可能性が高い」と話す。「誤配膳・誤食などのミスは起きるということを前提としても、すぐに察知して正しく対応すれば命は助かる。上越市の体質がこのままだとしたら、次にいつ死亡事故が起きてもおかしくない」と早急な改善を訴えている。
記事参照元:上越タウンジャーナル