連載[ルポ人口減少]高田を継ぐ<5>若者たちへ 上越市高田駅前 郷土愛のバトンをつなぐ
新潟県上越市のシンボル、高田城址(じょうし)公園を中心に広がり、400年の歴史を誇る高田地区。北信越を代表する城下町として活況を呈したこのまちも、人口減少に直面している。目立つ空き家に減っていく商店、存続の岐路に立たされている町内会-。高田を次の世代へ継ぐことはできるのか。まちを訪ねた。(上越支社・川島薫)=5回続きの5回目=
【2022/11/23】
レンガ造りの高田駅舎前。西日が差す広場の一角に高校生たちが列をなしていた。その先には真っ白なキッチンカー。ホットサンドを頬張る高校生たちは「うまー」と顔をほころばせ、立ち話に花を咲かせていた。
キッチンカーの中から高校生たちを見守るのは新潟県妙高市の元教員、湯浅昭司さん(61)だ。校長を務めた妙高高原南小を最後に今年3月に定年退職し、「キッチンカー HARUKANA(はるかな)」を始めた。
「赤字は避けつつ、売り上げを気にせずやってます」と笑う湯浅さん。たまごやツナ、つぶあんバターなど、6種のサンドは一律200円と安い。「未来を担う若者を応援したい」という一心だ。
教育とは違う世界で若者に貢献したくなった。「昔は高校生が寄る飲食店が駅前にもあったが今はあまりない。学生時代の思い出を残しにくいのでは」。そう考え、9月ごろから今の場所で営業している。
上越市内11の高校のうち6校が集まる高田地区で多くの高校生が青春時代を過ごす。「まちを離れても彼らの中に思い出が残ってくれれば。それが、ふるさとに帰るきっかけになるかもしれないね」
■ ■
高田区の人口減の主な要因は、死亡数が出生数を上回る自然減にある。ただ、若者が進学や就職で市外に出る社会減も深刻だ。
そんな中、最近は若者による、若者向けの店の開業が少しずつ増えている。おしゃれなカフェ、ヴィンテージファッションを取り扱う古着店などいずれも商店街の空き店舗や、雁木(がんぎ)通りの空き家に入居している。
都会に出てふるさとの良さを痛感した人、自分の「好き」を仕事にしたい人-。理由はさまざまだが、何かへの貢献や居心地の良さを重視して店を開いた若者が多い。
昨年3月、本町6の町家を改装して日本酒バー「スイミー」を開業した高田高出身の西澤眞咲(まさき)さん(28)も、その一人だ。
「友人が『上越は何もない』と外に出てしまうのが寂しかった。ここに住む人が、このまちを好きになる理由の一つになれれば」。店では連日、若者たちが酒杯を片手に交流。転入者がつながりを求めて来店することもある。
■ ■
秋晴れの10月末、上越市の玄関口、上越妙高駅前のコンテナ商業施設「フルサット」で「地方でかっこよく働く先輩に聞く上越キャリア勉強会」と題したセミナーに市内の高校生や大学生たち約15人が集まった。
進路に悩む人はもちろん、既に就職が決まっている人も今後のキャリアの参考にしようと参加。登壇したUターン起業者の話に興味深そうに聞き入り、終了後には登壇者に駆け寄って質問攻めにする姿もあった。
登壇者の一人で、広告代理業「THREE STORY」を立ち上げた上越市出身の相澤一恵(いちえ)さん(33)は「今はネットを活用して地方でも面白い仕事ができる。むしろ地方でなら先駆けになれるチャンス」と力強く語った。
参加した高田高2年の男子生徒(17)は「大学は県外に行くつもり。卒業したら地元に戻って働くのも一つの手かも」と視野を広げていた。
高田を継ぐカギは若者たちにある。古いまちで新しい挑戦が芽吹き始めている。
◆新たなまちへ活動芽吹く
取材を終えて 上越支社・川島薫
空き家は外からは分かりづらい。取材中、風情ある格子戸のきれいな町家も空き家だと知らされたときは、つい「もったいない」と口を突いて出た。だが、そんな感傷だけで済まされないほど事態は深刻だ。
高田のまちには大町5丁目の松倉康雄町内会長をはじめとした、まちづくりに積極的なベテランたちがいる。「たてよこ書店」のように、町家に魅力を感じた若者が少しずつ自分の「城」を築いている。
点の活動が線、面になり、まちが同じ方向を向いて動き始めたとき、新たなまちの姿が見られるはずだ。
連載1回目「ふるさと」
連載2回目「商店」
連載3回目「町内会」
連載4回目「町家」
連載5回目「若者たちへ」
記事参照元:新潟日報デジタルプラス
ピンバック: [ルポ人口減少]<プロローグ>新潟上越市とは?高田城中心にまちが発展、百貨店は既に撤退 半世紀で人口36%減 – みんなの上越